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はじめに。
僕には野望がある。
それは、世界中で日本の音楽が楽しんで貰えるようになること。
日本のクリエイターたちが簡単に世界に発信できるようになること。
そういった作品がしっかりと世界で評価されるようになること。
大げさかもしれないけど、割と真剣にそうなればいいなと思ってる。
今や、配信サービスを使えば誰でも簡単に世界中に音源を届けることができる。
良い音源を作っていれば、必ずSNSで反応が返ってくる時代になった。
制作に必要な道具も10年前と比べれば随分と安くてイイものが揃ってきた。
時代はCDから、配信に移ろうとしている。
日本でうまく受けないなら、世界に売る。
分母を単純に増やせばいい。
そういう発想の転換が簡単にできるようになってきた。
でも、世界で売るためには最初から世界で売るつもりで音を作らないといけない。
それが、うまくできていないから、今の日本の音楽シーンの停滞感があるように思う。
世界で戦えない原因は、もちろん言葉の壁もあるけれど、同じぐらい内容やベーシックなところの技術が追いつけていないからではないかと僕は疑っている。
僕はマスタリングエンジニアだから、正直あまりマーケティングのことはよくわからない。もし詳しい人がいたら解説を是非お願いしたい……。
ただ、分かる範囲内で、今の状況をみて感じていることがあるから、このサイトを作ろうとしている。
日本のエンジニアは保守的?
Twitterをみていると、ときとして日本の音楽のエンジニアは保守的だと責められることがときどきある。
(ここ半年ぐらいでTwitterを本格的にはじめてみました。)
実際に、僕もそう思うことはよくある。
しかし、だからといってすぐに日本のエンジニアのレべルが低いといった話になるかというと、それは違うように思う。
保守的だと言われる本当の原因は、日本のエンジニアがなかなか情報は発信をしようとしないこと、そして、新しい技術を貪欲に取り入れようとしないところにあるように思う。
どうして、日本のエンジニアたちがそうしようとはしないのか、僕にはいくつか心当たりがある。
責めるのは個人の自由だけれども、せめて内情をわかった上でそうして欲しい。
もちろん、僕も全部を知っているわけじゃないし、憶測でものを言っているので、その点はご容赦いただきたい。
師弟制と見て盗む文化
日本人はなぜだか、師弟性が好きだ。
寿司にしても伝統芸能にしてもみんなそうだ。
特殊なスキルがあるところには、かならず師弟制がある。
そこに共通しているのは
「見て盗め」
ということだ。
日本は、もともと武士がいた戦闘国家だったから、
もしかしたらその名残みたいなものが美徳として残っているのかもしれない。
勿論、感覚自体は教えようが無いから、経験を体で覚えていくというのは大事だ。
言葉で説明できないことというのは沢山あるからね。
しかし、その美徳こそが、多様性の敵なのではないかという強い疑いを僕は持っている。
「見て盗む」を神格化するあまり、古いスキルと新しいスキルの文脈の整理が、どうもできていないように感じることが多々あるのだ。
現代はインターネットがあり、SNSがある。
「見て盗む」のと同じぐらい、「読んで学ぶ」「話して創る」ことが大事になってきているはずだ。
オーディオエンジニアリングの世界の師弟制
僕は、基本的にはマスタリングエンジニアだけど、レコーディングを今でも頼まれてすることはある。
でも実際、どこかのスタジオでアシスタントをしていた経験は無い。
一時期、目指していたことはあるけれど、断念した。
ひとつは、体力がどうしても持たないと思ったから。
最近は変わってきているようだけれど、僕がレコーディングエンジニアとしてアシスタントで働いてみようと思った時は、みんな徹夜上等だった。
もちろん、そうしなきゃいけない現場があるのは当たり前なんだけれど、僕はそういうのを根性で乗り越えられるほどの根性は無かった笑
同時に、マスタリングに興味を惹かれていったのだけれど、マスタリングエンジニアはそもそもアシスタントの人がそのままマスタリングエンジニアになれるわけではなかったから、ついに僕はアシスタントをやることはなかった。
ふたつめは、最終的に自分で勉強しなきゃいけないのは変わらないということ。
例えばスタジオに勤めていたとしても、自分で学ぶ姿勢がなければ意味がない。
そこが根底にあるから、それぞれが競争の中で勝手にやっているように思う。
勤めていれば、レジェンドと呼ばれているエンジニアの資料はたっぷり見ることができるし、扱える案件も大きい。
つまり、勉強できる環境を用意するからあとは自分で這い上がってきなさい。
そういうことなんじゃないだろうか。
(あまりにかけ離れてたら容赦ないツッコミをお願いします。)
いずれにしても、基本的な姿勢は「見て盗め」だ。
もちろん、大きな現場の経験というのは代えがたい宝で、そこで知った音を知っている。
これは、差別化する大きなポイントだ。
でも、今はある一定のレベルまでは、Mix with the Mastersのように海外の研修サイトが今は充実していて、結局技術を身につけられるかは姿勢の問題のようにも思う。
日本語のそういうサイトはあまりみないけれど。
同じ環境にいたとして。
育つ人とそうじゃない人がやっぱりいる。
だとすると、やっぱり違うのは、根本的な姿勢なんじゃないだろうか。
アメリカと日本のノウハウの認識の違い
そういう状況を見ていると、「折角苦労して手に入れたスキルを簡単に渡してたまるか!」という気持ちになるのはよくわかる。
もちろん、そうあるべきだと僕も思う。
でも、不思議と海外ではそういったスキルをどんどんとYoutubeで紹介している人がいたり、簡単にノウハウを電子書籍で買えたりしてしまう。
で、そこからエンジニア同士がディスカッションをはじめていたりして、これがまた凄く勉強になる内容であることが多い。
例えば、グラミー賞を受賞しているマスタリングエンジニアのBob katz氏と直接掲示板でやりとりができてしまったりする。しかも、質問すると懇切丁寧に教えてくれたりする。
信じられないことだよね。
僕は、そんな光景を日本では見たことがない。
少なくても彼に返事をもらったとき、僕は感動した。
どうして、日本にそういうサイトがないのだろう?
どうして、日本ではエンジニアリングについてのディスカッションが産まれないのだろう?
当然彼らも、ノウハウを生み出すのはラクじゃないはずだ。
それなのに、どうして海外の方々は、あんなに惜しげもなくノウハウを公開しているのか。
いくつか洋書を読んだり、研修サイトに参加したりするなかで感じたのは、恐らくノウハウの認識そのものが違うということだ。
簡単に言うとこういうことだと思う。
エンジニアリングのスキルを定義するときに、
日本では
「技術=ノウハウの数×経験年数」
の傾向が強い。
つまり、引き出しの数を求められる。
だからノウハウそれ自体に価値がある。
しかし海外では、
「技術=ノウハウの開発力×実績」
の傾向が強い。特にアメリカはそんな感じがする。
これは、よりそれぞれのスペシャリストであることを求められているということだと思う。
海外で評価されている人を見ていると、開発したノウハウがスゴイだけではなく、ノウハウを開発する能力がそもそも高いように感じる。
(当然、日本でも一流の方々はそうだと思う。)
だから、皆、プレゼンのためにノウハウをどんどんとシェアをして、良い循環や交流が産まれている。
そういった海外のオープンな人たちと比べて、日本のエンジニアが保守的だと責められてしまうのはある種仕方がないのかもしれない。
別に意図して隠していなかったとしても、そもそも、
既存のエンジニアリングを使うスキル。
新しいエンジニアリングを開発するスキル。
そして、エンジニアリングを教えるスキル。
これらはそれぞれ別のモノだし、それを全部揃えることができるような土壌や余裕が実際の現場には無いように感じる。
僕が目指していること
随分と偉そうなことをいっているけれど、僕はまだまだ駆け出しだ。
諸先輩方に比べれば圧倒的に経験不足。
大したことしてない奴が「何言ってんだ」と鼻で笑われてしまうかもしれない……。
でも僕は、例え自分が経験不足だったとしても、皆でディスカッションをすることができれば、時間と経験を超えた価値を生み出せると信じている。
もしも、それぞれが別々のエンジニアリングのスキルを持っているのなら、それらを掛け合わせてしまえば新しいスキルになる。
自分のスキルを別の人に教えて、別の経験をしてもらうことでまた新しい解釈が産まれてくる。
そうやって、エンジニアリングや音は進化してきたはずだ。
いい循環を産み出すためには、まずは僕自身が発信しなくちゃいけない。
発信して、色んな意見をもらって、ディスカッションをしたい。
お互いを育むことができる交流の場が僕は欲しい。
コメント欄なのか、SNSなのか、掲示板なのか。
どこでそうなるのかはわからないけれど、そうなって欲しい。
そんな想いでこのサイトを作ってみました。
世界に通用するガラパゴスを目指して
ガラパゴス化は日本のお家芸だと思う。
はたから見れば、日本人はオカシイぐらいの先鋭化がもともと好きな民族だ。
日本の音楽はまだまだやれる。
土壌が整えば、世界にだって通用するようになる。
それぞれが自分の感性を信じながら、
「読んで学ぼう」「話して創ろう」。
まずはそこからはじめばいいんじゃないだろうか。
そーいうのに飽きたとき、もう、興味がどーしても押さえきれないとき。
最後に「見て盗めばいい」と僕は思う。
きっと、世界に羽ばたくオリジナリティーは、それぞれがそれぞれの個性を反映して独自進化したスキルのかたちのはず。
僕の経験やスキルがクリエイターの方々に少しでも伝わるのなら。
独自進化の種を撒くことができるのなら。
エンジニアリングに少しでも興味を持ってもらえるのなら。
これ以上無いぐらい嬉しい。そう思うのです。
諸石 政興