「あれっ?」というのは大切な感覚だと思う。
何かが違う、でも何が違うのかがわからない。
きっと、初めてレコーディングをした時の体験ってそんなもんじゃないだろうか。
少なくても、僕はそうだった。
「どうしたらうまくいくか」を考えることはつまり、「どうしたら違和感を覚えずにすむのだろうか」を考えること似ているのかもしれない。
僕がレコーディングにハマった理由。
それは結局のところ、「え、CDってこんな音じゃないけど!?」という疑問だったように思う。
・初めてのレコーディング
僕が初めてレコーディングを経験したのは、大学1年生の冬のことだった。
ライブができる合宿所で、オーナーが趣味と実益を兼ねてレコーディングのサービスをやっていたのだ。
といっても、無料で対応してもらえる範囲なので、いわゆるリハスタ一発録り。
レコーディングと聞いて頭に浮かぶあの風景ではない。
自分の持ち時間になると、8畳ぐらいのスペースで「せーの」でレコーディングをする。
ボーカルマイクはAudixのダイナミックマイクだった。
ブースも分かれていないし、マイクもリハーサルで使っているものを適当に使う超簡易的なレコーディングだったけれど、皆真剣にのぞんでいた。
前日、徹夜で練習する人もいれば、 緊張でうまくご飯が食べられない人もいた。
レコーディングはそれだけ未知の体験で。 普段からライブをやっていた僕らでも、ピリッとした空気が流れていた。
例外なく、僕も一生懸命練習してレコーディングに臨んだ。
自分にとってのベストは尽くしたつもりだった。
けれど、感想は
「いつもと自分の声が違う・・?」
というモノだった。
・「あれ、僕ってこんな声だっけ?」からはじまったレコーディングへの道
僕が違和感を覚えたのは、まずはその音質。
普段からリハーサルやライブをフィールドレコーダーで録音をしていたのだけれど、その音とあまりにかけ離れていた。
「なんか篭っている気がする・・・。」
それが率直な感想だった。
フィールドレコーダーの方がずっと生々しくいい音で録音できているのに、なぜかマイクを通してレコーディングをすると鮮度が失われてしまっている。
ご飯を抜いて気合を入れて挑んだのでちょっと悲しかった。
でも、そこから、「どうしたらいい声で録れたのか?」という疑問が頭から離れず、好奇心の扉が開いた。
・マイクの種類を変えてみた
調べて行くうちに、マイクには2種類あることがわかった。
ダイナミックマイクと、コンデンサーマイクだ。
普段自分が使っているマイクはダイナミックマイクというもので、レコーディングで使うものはコンデンサーマイクと呼ばれているものらしい。
自分が使っているフィールドレコーダーはコンデンサーマイクだから、コンデンサーマイクなら間違いない。
種類さえ同じなら、きっと同じように録れるはず。
そう期待を込めて買ったのが、MXLの入門用のコンデンサーマイクだった。
しかし、予想に反していざ使ってみると大変なことばかり。
まず、ノイズを拾いすぎてしまって声だけをうまく録ることができない。
さらに録音した声に音量差がありすぎて、全然CDと違う。
音がペラペラとした感覚がある。
なけなしの貯金を使って買ったので相当ショックだった。
「どういうことなんだー!」
「なんでこのマイク、こんな高評価なんだろう?」
と、ちょっとした敗北感を味わった。
当時はどうして高価なマイクが存在しているのか。
MXLのマイクがいかにコストパフォーマンスに優れているのか。
何もわからなかった笑
・マイクまでの距離で全然声が変わってしまう発見
しばらく試行錯誤を繰り返すうちに、マイクまでの距離によって声がまるで違うことに気がついた。
少し離れてみた方がレンジが広く録れることがわかるようになり、段々と自分の声にとってどのぐらいの距離で録音をするのがいいのかがわかるようになってきた。
同じマイクでも、全く違う音で録れてしまう。
悪かったのはマイクや機材じゃなくて、自分の録りかたなんじゃないのかと、色々な距離から声を録音して実験をしていた。
同時にどうしてCDのボーカルの音がこんなに耳触りがいいのか、こんなに歌詞が聞き取りやすいのかを疑問が湧いて出てくる。
そうか、プロの現場ではノイマンというマイクが使われているのか。
あのCDでは真空管マイクを使っているな。
どうしてマイクっていろんな形があるんだろう。
好奇心がそこに向いたときには、もう新しいマイクが欲しくなっていた。
すっかり、サンレコの読者にもなっていた笑。
・初めての本格マイク LautenAudio Horizon
僕がレコーディングにハマって行ったのは、LautenAudio Horizonとの出会いが決定的だったように思う。
Horizonは十分なプロスペックで使える10万円ぐらいの真空管コンデンサーマイクで、U67っぽい音がするということで、一時期レコーディングエンジニアの間でよく話題になったマイク。
当時の僕にはU67っぽいという意味はよくわからなかった。
けれど、色々なプロデューサーがオススメしていたり、雑誌の前評判がよかったたりしたことから期待に胸を膨らませていた。
実際、楽器屋で試してみて、これが大正解だった。
今まで使っていたマイクと比べて全然ノイジーではなく
音量もしっかり出るのに耳に痛くない。
何より初めてCDっぽい音で自分の声を録音できた。
今まで使ってきたマイクとの根本的なスペックの違いに愕然としながら、いい音で録音できることの楽しさに感動をした。
・面白さと違和感の反復横跳びを繰り返す。
それから僕の興味の変遷は、マイクの機種の違い、マイクプリアンプの違い、コンプレッサーの違いとどんどんと変わっていった。
新しいことを試すたびに、
「ああ、これが足りなかったのか!」という面白さと
「え?これってなんかチガウ。」を発見していった。
僕はキャリアから見るとレコーディングエンジニアというよりもどちらかといえばマスタリングエンジニアなんだけれど、今でもレコーディングは好きだ。
行った事のない現場で、初めてのマイクで、初めてのアーティストを録音するとき。
予想した音とどう違うのか、耳を傾ける。
それを優しく修正する。
結局のところ、それが全てであるようにさえ思う。
初心者だから気づけることもある
よく、レコーディングを始めたばかりの方や、作曲志望で録音そのものに「あんまり詳しくないから・・・」と謙遜されている方の感覚の鋭さにビックリさせられることがある。
というのも、実際にCDになっている音との違いに対して、プロセスを知らないぶん敏感だからだ。
それが、だんだんと工程を理屈で理解するようになり、機材についての知識を深めていくにつれて、自分の作っている音がどうなのか、客観視できなくなってくる。
早い話、「これだけやっているんだから・・・」と色眼鏡をかけてしまいがちになってしまう笑
そういうバイアス無しに判断できるというのは、初心者ならではの強さだと僕は思う。
必ずしも経験が味方をしてくれるとは限らないのも、面白いところだ。
初心者だからと萎縮する必要は全くなくて、感じたことを素直に受け止めればそれが一番正解に近いはず。
もし、DTMや宅録を続ける中で、何か「あれっ?」と思うことがあれば。
それは、自分の感覚に素直になれているということだと思う。
自信を持って、違うと感じる原因が何なのか、考えていこう。
大抵、そこには新しい発見が待ってるはずだ。
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