マルチマイクで録音したものの位相については、音を聞きながら最初に調整をしておくようにしましょう。位相を整えると聞こえ方がガラッと変わるので、無理なEQやコンプレッサーなどを使わずに済むからです。 

では、位相ってなんでしょうか?また位相がずれてしまうとどのような問題が起きてしまうのでしょうか? 

少し難しい話にはなりますが、簡単に言うと「音がボヤけてしまうので、対策をしておきましょう」というお話です。ただ、どうしてそうなるのかを知っておくと、音に対する理解が深まり、レコーディングでもミックスでも視野が広がっていくように思います。 

 

位相って何? 

位相はいろいろな意味合いで使われるので難しい言葉の一つです。が、ここでいう位相は、波形にしたときの周期の位置(=タイミング)のことを意味しています。 

 

波形って何? 

その意味を理解するためには、まずは波形について理解する必要があります。 

波形というのは、音を周波数で表したときにどのぐらいの回数の音の振動があったかを示しています。 

例えば100HZサイン波の音というのは、1秒間に100回の波形を繰り返しています。そのことを図で表そうとしたのが波形です。 

 

 

縦軸が音の大きさ、横軸が時間を表しています。 

音が大きいほど波形の高さが大きくなり、音が高いほどこの周期が短くなっていきます。この上にいって下にいく動きで1周期とします。 

 

この波形をみたときに、現在どこの位置にあるのか?というのが位相です。 

位相は周期に対して角度で表します。 

 

半周期を180度、1周期分を360度といった形で表現します。 

 

位相がずれるとは? 

例えば別々のタイミングで同じ高さのものを鳴らすと、同じタイミングで同じ同じ高さのものを鳴らしたときと比べて音が小さく聞こえてしまいます。 

 

(同時の場合とそうでない場合) 

これは、波形がずれていることで、音が打ち消し合ってしまい、本来なら大きく聞こえていた部分が聞こえにくくなってしまっていることを表しています。 

 

実際の音は単純なサイン波ではないので、もっと複雑ですが、同時に同じような音がなっているときに、位相(タイミング)がずれていると、音がボヤケてしまうのです。 

 

位相を整える方法 

位相を整えるためには、波形のタイミングを調整していく必要があります。そのためにはまず波形を大きく拡大をしてみましょう。 

 

ここから、一番ハッキリと聞こえて欲しい音を基準に波形のタイミングを合わせていきます。 

 

例)ドラムをマルチマイクしたときに、スネアの抜けを良くしたい場合 

スネアの上下の波形のタイミングを合わせる 

 

オーバーヘッドの波形とスネアの波形のタイミングを合わせる 

 

他、タム類、キック類の波形を合わせる 

 

例えば、こういった波形のズレがあったときには、 

 

このように調整していきます。 

 

 

といった具合です。実際にレコーディングされている音は狙っているパーツだけではなくて、別の音のカブリも入っているので、なるべく手前に出したいパーツを最初の基準に選ぶようにするとうまくいきやすいです。 

 

音の聞こえ方に影響をしてくる部分なので、目で合わせて、音を確認して、好みのタイミングを模索していきます。 

 

基本はオンマイクからオフマイク 

位相を合わせる時に何を基準にするか?というところが、話の焦点になってきます。が、基本的にはまずオンマイクを合わせて、次にオフマイクを合わせることをお勧めします。 

というのも、オンマイクのマルチマイキングについては、距離が近いため、波形を打ち消しあってしまいやすいのに対して、オフマイクの音に関してはそもそも遠い距離の音をレコーディングしているので、耳で音楽な判断をする必要が出てきます。 

一般的には位相があっていれば、前に出てくる音、位相がずれていればボヤけた音になると言われています。 

ただ、オフマイクについていえば、ステレオ感や広がり感を足すためにレコーディングすることが多いので、必ずしも位相を合わせることが正しいとは限らないのが、実際です。 

 

そのため、まずやらなくてはいけないのがオンマイク、次に耳で聞きながら判断するのがオフマイクだと覚えておくと良いでしょう。 

 

位相管理をするおすすめプラグイン 

SoundRadix Auto Align 

最近ではこういった作業を自動化するプラグインも発売されています。たくさんの位相を合わせないといけないときや、ライブレコーディングなどでどのマイクにもカブリが入ってしまっているときに便利なのが、SoundRadix社のAuto Alignです。僕もレコーディングスタジオ外での録音のときには愛用をしていて、助けられたことが何度もあります。 

 

基準にしたい音をSENDで送り、合わせたい音をRECVで受けてDETECTボタンを押すだけで、機械的に位相を整えてくれます。 

もちろん、耳で判断をすることは大切で、常にこのプラグインが正解を出してくれるとは限らないのですがスタートポイントとして設定する分には非常に便利です。 

自分で位相を揃えてみたけれどうまくいかない場合や、波形で基準をうまく追えないときにはこういったツールに頼ってみると解決できることもあります。 

 

Melda Production Mauto Align

 

これも、同じようなプラグインですが、より使い勝手が簡単なものになるかと思います。 

グループを組んでアナライズボタンを押すだけで自動的にディレイを挟んだり、位相反転をしてくれるのでセッティングが非常に楽です。 

ただ、ぴったり合わせようとしすぎて音色が変わってしまうことも経験上あるので、どの位相をぴったり合わせるといいのかを意識した使いこなしが必要になってきます。 

 

心得チェックポイント 

・位相とは同時に鳴らした音のタイミングのズレのことです。 

・一番ハッキリと聞こえて欲しい音を基準に波形をずらして音を調整します。 

・レコーディングのときに位相がしっかり整うようにマルチマイキングをしておくことがいい結果に繋がります。